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朽ちていった命―被曝治療83日間の記録  

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)
朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)NHK「東海村臨界事故」取材班

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今年の9月で東海村JCOでの臨界事故から10年が経つ。
安全教育と工程などの手順書が整備されている大きな企業、それも原子力産業の末端で、効率を優先したために作業場は原子炉の中と同じ臨界状態とした。日本中を震撼、世界中から注目されたその事故現場は、わずか直径50センチ、高さ60センチ程度の金属容器で、まさになんら防護されていない裸の原子炉だった。

事故は昼に発生し、夜の報道はすべて臨界事故一色となったのを覚えている。夜には事故現場から半径10キロが屋内退避要請が発表。既に日中には半径350メートルでは避難要請が出されていた。
常磐線も止まり、自動車道も通行止めとなり、現地の通りは無人と化した。

臨界が止まった後も、線量計などで被ばく量を測定する住民の映像がテレビで流されていた。

いったい、何が起きたのだろう。政府もマスコミも混乱していたので当時はよくわからなかったが、後日、読売新聞社編で“青い閃光”という本が中央公論新社から出版され、事故の過程を知ることができた。

しかし、事故現場で作業をしていた被ばく作業者のその後は詳細に書かれておらず、今回改めてNHK編のこの本を手に取って読んでみることにした。

この本は、まさにウラン溶液を金属容器に入れていた二人のうちの大内久さんの治療過程の記録だ。視点はどちらかというと医療関係者が中心で、搬送された国立水戸病院からヘリで千葉の放射線医療総合研究所へ転院。この時テレビでも見たが、放射線防御服を着た医療関係者が出迎える。
浴びた中性子線は20シーベルト。8シーベルト以上での死亡率は100%だ。作業した二人は臨界の際に青い光を見ていて、その後倒れているのだが、搬送された段階では外傷がほとんどなく意識もはっきりしていたそうだ。その後のことも考慮し、総合病院である東大病院に転院する。

転院後、日を追うごとにはっきりと悪化の一途をたどっていく。すでに金属容器に近かった腕や腹は被ばくにより細胞の遺伝子がバラバラになっていた。特に細胞分裂の激しい皮膚や腸壁では新しい組織は作られなかった。事故当時はきれいな肌だったのが10日目で皮膚がはがれはじめる。免疫もなくなり、常に細菌やカビなどの感染予防が行われる。造血幹細胞移植や皮膚移植も行われたが一時的なもので、身体の臓器は同時進行で悪化。医療チームはその早い進行に対応するのが精一杯となっていく。そして83日目に亡くなってしまう。

いくつか印象的なシーンがある。
家族は本当にギリギリまで希望を捨てなかった。どんどん朽ち果てていく身体をみても毎日お見舞いに来て、話しかけたり身体に触れたりしていたらしい。特に奥さんは気丈にも笑顔を見せながら話しかけていた。自分にはできないと思う。本には一部腕の写真があるが、実際にはとても正視できないだろう。

また大内さん自身も、医療関係者にも最初、泣き言は言わず、苦痛な表情を見せていても奥さんにはやさしく接していた。それでも「チェルノブイリの被害者はのどが渇くと言っていたと聞いていたが、本当に渇くんだな」と言っていたあたりから死の覚悟はあったもかも知れない。だから話せるうちに家族との会話を大切にされたのだと思う。

しかし、その後は断末魔の叫びとなる。
「もう嫌だ」
「やめてくれ」
そして「おれはモルモットじゃない」

医療関係者も苦悩する。見掛け上健康な身体で入院したが、日を追うごとにやけどのような身体になる。本人の苦しみも激しくなり、輸血の大量の行われた。今行っている治療は苦しみを増すだけではないのか。治る見込みがあるならまだしも、治る見込みがないのに続けるのか。

59日目に一度心停止する。その後、意識がなくなったが治療は続けられた。もはや「生きている」のではなく「生かされている」状態。もはや心臓以外の臓器は正常に働くことはなかった。

検視で解剖されたがほとんどの臓器が損傷する中で心臓だけがきれいだったそうだ。「生き続けたいというメッセージ」だったのではないかと検視の先生が話している。

一般的な見方をすれば、助かる見込みのない人を無理に延命させて苦しめてしまったことはよくなかったのではないか。
また貴重な輸血用血液を大量に使ったことで、本来助かるために必要な人の分も使ってしまったのではないか。

それでも家族や医療に従事する人たちは、途中でやめられなかったに違いない。それはどんな理屈でもなく、家族の愛であり、医療の使命だったからかもしれない。今回の事故で医療関係者にも重い問いが残っているようだ。

最近は利益に走り、食の安全などが危ぶまれている。原子力事故も同じだ。どうか仕事のプロということを忘れずにいてほしい。今回は作業者も何も知らずに作業を行った犠牲者だった。社員、消費者などにちゃんと説明できる社会になってもらいたいものである。


2009-6-28
関連リンク:青い閃光―ドキュメント東海臨界事故
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コメント

不景気になると

一連のNHKスペシャル、TVで見ていました。
海外産の燃料に対抗するために、輸送大作戦と称して1Wかかる作業を4Hに縮めて。金属バケツを使って..。
放射性物質の責任者も臨界条件を知らず、そのとんでもない作戦をOKしたと。

TVでは、実際に看護に当たった看護師さんが、自身の言葉で語られていました。生きながら朽ちていく凄惨さ、企業経営者に見ておいてほしいと思います。

不景気になると、この辺のモラルのタガが簡単に外れるのを危惧します。
起きたことがない、めったに起きない。きっと大丈夫...会社潰れたら元も子もないだろう...。

自衛第一ですね....。
知識と情報。

Re: 不景気になると

> 不景気になると、この辺のモラルのタガが簡単に外れるのを危惧します。
> 起きたことがない、めったに起きない。きっと大丈夫...会社潰れたら元も子もないだろう...。

まったくその通りです。
でも不景気になり追い詰められてくると、正しい判断ができない経営者も増えてくる。
吉兆しかり、三笠フーズしかり、ミートホープしかり。
ちょっとしたごまかしが、段々常態化してしまうのでしょう。人間の心は弱いものです。

取引先に迷惑をかけたくない、親からの会社をつぶしたくない、従業員の生活を守る…
それは当たり前のことなのだけれど、銀行だけでなく、街金からも借り、さらに親戚からも借りたが倒産してしまう会社もありますしね。そうならないために偽装などにも手を染めるんですが。
結局は取引先は連鎖倒産の危機、従業員には退職金も払われない。親戚にも迷惑を掛ける。

引き際というのは大切なものです。

社員は自分の仕事の内容をもっと興味を持って知ることが必要だと思います(限界があっても)。経営者だけでなく社員もモラルとプライドを持って仕事をしていけば、よい会社ができると思いますが、なかなか理想に近づけるだけでも大変です。

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