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海がきこえる 

海がきこえる
海がきこえる氷室 冴子

徳間書店 1999-06
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匝は小学3年の頃に東京から川崎へ転校した。生まれ育って、学校へ入学して、友達ができて、そこは自分にとって世界だった。それが転校して、まったく違った世界に放り込まれた時の気持ちは複雑だ。というよりも不安で不安で一杯だった。知っている人は誰もいない。そして学校のみんなは好奇心をもって遠巻きに自分を眺めるのだ。

“海がきこえる”…。この本はただの高校生の恋愛ものだと思っていた。ジブリでアニメ化もされたし、それなりに興味はあったものの本を手に取ることはなかった。匝は小説とか苦手で読むことが少ない。だから今回、手にしたのは魔が差したのか、たまたまだったのか、誰かが手に取るように望んだからなのだろう。

物語は大学進学のために東京に上京した主人公の杜崎拓の回想からはじまる。

親の離婚で東京から母の実家のある高知にやってきた17才の武藤里伽子。母ともうまくいかず、高知の学校にも馴染まずに、クラスメイトへ反発までする。東京へ戻りたい、大好きな父に会いたいという思いを胸に東京へ戻る計画を立て実行する。

杜崎は中等部の時に修学旅行が中止になったことに意地になって反発した。“学校が決めたこと”ということに反発したのだ。そして17才になって武藤里伽子と出会った。

杜崎の親友、松野が里伽子に片思いを寄せていたため遠慮していたものの、武藤里伽子の計画にいいように利用された杜崎はそのわがままに翻弄されながらも、その過程で里伽子が他人には決してみせない姿を目の当たりにする。父の再婚、元彼氏が友人の女の子と付き合っていたこと。里伽子は東京にも戻るところがないことを悟る。

里伽子とのケンカ別れ、親友とも疎遠になったまま卒業。そして東京にきて久しぶりにみた里伽子の写真を眺めて、自分が里伽子のことが好きだったことを自覚する。


ずっと主人公杜崎の目を通じて世界が語られる。大学の生活で偶然にも再会したふたりは、だんだんと素直になっていく。

特に匝の印象に残ったのは、まだお互いに素直になりきれない東京ドームからの帰路、里伽子が「あたし、杜崎くんが好きなのかもしれない」と言った後、“胸にズンときた”杜崎が足早に歩き始め、続けて里伽子が「…どうして今になって、こんなこと思うのかな」と話しかけた時の杜崎のこと。
「それはきっと」「武藤はいま、淋しいからだよ。せっかく東京にもどってきたのに、うまく居場所が見つからなくて、淋しいんだ。だから、溺れる者はワラをも掴むってやつで、ぼくで手を打とうとしてんだよ」
「ずいぶん、きっぱりいい切っちゃうのね。あたしが杜崎くんを好きっていうの、思い違いなの?」
「きっとそうだよ」
この後、歩きながら杜崎は“せっかく里伽子が思い違いでもなんでも、好きといっているのに、どうして、こういう展開にもっていくんだろう。どうして、サンキューとかいって、喜ばないんだろう”とモノローグが続く。

あぁ、匝もたぶんそんなこといってしまう。いや、彼らの年頃なら間違いなく似たような後悔?を匝もするだろう。“しまった”と思うか、意地になって認めないか…。でもなんでそんなこというのか自分でもわからない。恥ずかしいんだろうか。
思い返せばそんな思い出はいくらでもでてきそうだし、でてくると何か胸がちょびっと苦しい。はずかしいから、書けないけれど。

でも里伽子の気持ちは理解できるよ。わがままで付き合いも悪いのだが、高知は自分の世界ではないんだ。まして方言が飛び交う田舎。自分は標準語しか話せないのだから、ますます世界が違いすぎる。そこに親の離婚もあったわけだから、あれだけ気丈に振舞えるのは大したものだ。

対比するように杜崎は高知から東京へでてくるところが作者の仕掛けなのだろう。

ところで作者の氷室冴子氏はどのような思いで書いたのだろうか。この本は第2章に“マン”というタイトルがついている。杜崎ののいとこ(女)が西部劇は「ボーイがどうやってマンになれるかの話」といっているのだが、“海がきこえる”もこの辺がテーマなのだろうか。

そうだな、この本は20代後半以降の嫌な昔話もワラって話せる年頃に読むといい。匝は今、この本を手にしてよかったと思っている。

※某有名ラノベのキョンくんと杜崎は通じるものがあるね。

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